BIOSECURE Act Update - Japanese

19 Dec 2025
Client Alert

米国の行政機関が「懸念対象バイオテクノロジー企業(Biotechnology Companies of Concern)」と契約を締結する能力を制限する法律であるBIOSECURE Act が成立しました。BIOSECURE Act は、2023~2024 年の立法会期で初めて提出され、昨年にはほぼ成立寸前まで至りましたが、その後、2025 年 12 月 18 日に大統領が署名した 2026 会計年度国防権限法(FY 2026 National Defense Authorization Act、FY 2026 NDAA)に盛り込まれました。BIOSECURE Act は、バイオテクノロジー業界のサプライチェーンに重大な影響を及ぼすと予想されており、連邦資金を失うリスクが、企業に同法の遵守を事実上強制するほど大きなものとなる可能性があります。

立法経緯

BIOSECURE Act は、強い支持があったにもかかわらず、対象とされる企業に対する適正手続(デュー・プロセス)上の懸念等もあり、2023~2024 年の議会会期中には成立に至りませんでした。[1]実際には、同法案はほぼ最終段階にあった 2025 会計年度国防権限法(FY 2025 NDAA)に一旦盛り込まれましたが、最終段階で削除されています。

しかし、2025年7月、ビル・ハガティ上院議員が FY 2026 NDAA の上院版への修正案として BIOSECURE 法案を復活させ、先に成立しなかった法案をほぼ踏襲する形で提出しました。[2]その後、上院は 2025 年 10 月に BIOSECURE Act を含む FY 2026 NDAAを可決しましたが、下院版には同法案が含まれていなかったため、その行方は両院協議による調整プロセスの結果に委ねられることになりました。

2025 年 12 月 7 日には、調整を経た最終版の FY 2026 NDAAが公表され、その中には、同年 10 月に上院が可決した BIOSECURE Act を修正した条文が盛り込まれていました。[3]同法の中核的な要素は維持された一方で、調整後の条文には、産業界にとってより有利となる修正が取り入れられています。

(注:立法経緯の詳細については、本件に関する当事務所の過去のブログ記事をご参照ください。)

維持された点

BIOSECURE Act の各バージョンを通じて、その中核となる要素は一貫して変わっていません。すなわち、米国の行政機関は、「懸念対象バイオテクノロジー企業(Biotechnology Companies of Concern)」に指定された企業と契約を締結したり、そうした企業に資金提供したりすることを禁止される、という点です。

調整後の BIOSECURE Act における「懸念対象バイオテクノロジー企業」の定義には、(A) 国防権限法第 1260H 条に基づき「米国内で事業活動を行う中国軍関連企業」として国防総省(DoD)が指定した企業(いわゆる 1260H リスト掲載企業)と、(B) 行政管理予算局(Office of Management and Budget、OMB)が主導するプロセスを通じて今後指定される企業の双方が含まれます。

主要な変更点

調整後の条文は全体として従前の案とほぼ同様ですが、BIOSECURE Act の影響を一定程度緩和する、産業界に有利な変更点が複数盛り込まれています。

  • 違反成立のための「認識」要件の厳格化によるコンプライアンス負担の軽減

上院版では、行政機関は、行政機関との契約の履行において、懸念対象バイオテクノロジー企業(Biotechnology Companies of Concern)によって製造または提供されるバイオテクノロジー関連機器またはサービスの利用が必要となることを「知っている」または「そうであると信じるに足る理由がある(has reason to believe)」契約を締結する事業体と契約を締結することを禁止していました。これに対し、調整後の BIOSECURE Act では、この「信じるに足る理由がある」という要件が削除されました。その結果、完全に統制できない大規模で複雑な調達ネットワークに依存していたり、自社が完全には把握できていない下流サプライチェーンにおける取引の可能性がある企業にとって、コンプライアンス負担が一定程度軽減されることになります。

  • 医薬品アクセスおよび価格への配慮

調整後の条文には、「医薬品価格制限との整合性(Compliance with Limitation on Drug Prices)」と題する新たな規定が追加されています。この規定の下では、BIOSECURE Act による制限のために退役軍人省(VA)の Federal Supply Schedule 契約を新たに締結できない、または維持できない場合であっても、それのみを理由として、連邦リベート契約(Medicaid や Medicare パート B に基づくリベート契約を含みます)への参加資格を失うことはありません。これは、BIOSECURE Act が医薬品価格に予期しない影響を及ぼすのではないかという重要な懸念に対応するものです。

さらに、調整後の条文では、海外に居住する米国の従業員や軍人、その被扶養者の医療アクセスを確保するための規定が明確化されています。

  • 懸念対象バイオテクノロジー企業の「関連会社」は自動指定の対象外に

上院版では、懸念対象バイオテクノロジー企業(Biotechnology Companies of Concern)の定義に、懸念対象バイオテクノロジー企業として指定された事業体の子会社、親会社、関連会社および事業承継会社がすべて含まれていました。これに対し、調整後の条文では、この定義から「関連会社(affiliates)」が削除されています。

BIOSECURE Actの主な示唆

BIOSECURE Act の主な示唆の一つは、懸念対象バイオテクノロジー企業Biotechnology Companies of Concern)の機器やサービスを利用すること、例えば医薬品製品の原薬または有効成分(active pharmaceutical ingredient, API)の製造を同社に外部委託することなどにより、その製品が米国の行政機関への販売に関して不適格となり得る、という点です。

同法はまた、医薬品の研究開発を支える米国連邦政府の助成金に依存している製薬企業にも影響を及ぼします。こうした企業は、連邦資金が懸念対象バイオテクノロジー企業に流れないよう、助成対象のプロジェクトの構造を設計する必要があります。さらに、過去の費用について償還を求める企業は、助成金申請において、対象となる費用に懸念対象バイオテクノロジー企業への支払いが含まれていないことを証明できるよう準備しておくことが求められます。

業界全体への混乱を抑えるため、同法の要件は段階的に導入され、移行期間や既存取引に対する既得権条項 (grandfathering)、限定的な免除規定などが設けられています。法律上、OMB は、法律の成立から 1 年以内に、既存の 1260H リストを補完する形で、懸念対象バイオテクノロジー企業の初回リストを公表しなければなりません。その後、OMB は 180 日以内に実施に関するガイダンスを発出することとされています。さらに、そのガイダンスの発出から 1 年以内に、連邦調達規則評議会(FAR Council)は 連邦調達規則(Federal Acquisition Regulation、FAR)を改正し、その改正から 60~90 日後以降に締結される契約および交付される助成等に対して、新たな要件が適用されることになります。

理論上は、早ければ 2026 年にも施行が始まる可能性はありますが、実際は、OMB や FAR Council がリスト、ガイダンス及び規則の策定に法定期間の大部分を要すると見込まれます。1260H リスト掲載企業に対する BIOSECURE Act の制限は、遅くとも法律の成立から 970 日(約 2 年 8 か月)後までには発効し、OMB リスト企業に対する制約はその30日後に発効することになります。

また、同法は、既存の契約、助成金および融資について 5 年間の移行期間を認めています。ただし、すでに 1260H リストに掲載されている企業が関与する取引については例外であり、この場合の制限は、FAR が改正されてから 60 日後に発効します。導入は段階的に行われるものの、とりわけ複数年にわたる契約を既に締結している組織にとっては、対応準備期間は依然として限られています。

これらのコンプライアンス・タイムラインについては、以下の図表をご覧ください。

Biosecure Japanese



今後の対応

影響を受ける企業は、コンプライアンス確保のための準備を今すぐ開始すべきです。企業が取り得る具体的なステップとして、例えば以下が挙げられます。

  • 既存の 1260H リスト掲載企業および、OMB のプロセスを通じて今後指定され得るサプライヤーに対する自社の関与状況を洗い出す。
  • M&A、ライセンス、投資に関するデューデリジェンスの質問項目を更新し、BIOSECURE Act に関連するリスクに関する質問を明示的に組み込む。
  • 今後公表される OMB、FAR およびその他の連邦当局によるガイダンスを注視する。OMB による指定リストは今後の運用の中核となり、FAR の改正はコンプライアンスの枠組みを形作ることになるほか、国立衛生研究所(NIH)、国防総省(DoD)、国立科学財団(NSF)、メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)、退役軍人省(VA)などの機関からも、分野別の追加ガイダンスが発出される可能性がある。
  • 自社が指定対象となる懸念がある場合には、早期に法務カウンセルや政策担当者と連携する。具体的には、OMB の審査プロセスに提出する意見書等の準備を進めるほか、実務の具体化に大きな影響力を持つと見込まれる関連業界団体を通じて働きかけを行う。
  •  米国の行政機関向けの医薬品販売から多額の収益を得ている、または今後得る見込みがある企業は、(i) 製造工程(特に外部委託部分)の評価、(ii) 行政機関向け契約の対象となる、または今後対象となりうる製品について、製造工程が懸念対象バイオテクノロジー企業(または将来そのように指定され得る企業)の機器またはサービスに依存しているかの確認、(iii) そのような依存関係が認められる場合には、それを解消するべく製造プロセスの見直しを検討する。
  • このような評価は、すでに 1260H リストに掲載されている契約者にとって、極めて重要です。OMB によって特定された企業については、既存の契約に関して 5 年間の経過措置が認められますが、1260H リストに掲載された企業には同様の猶予は与えられておらず、FAR に当該企業が組み込まれてから 60 日後に制限が適用されます。

現在、懸念対象バイオテクノロジー企業に依存している製薬・バイオテクノロジー企業にとっては、そのような関係の解消は容易ではないかもしれません。ある医薬品受託開発製造機関(contract development and manufacturing organization, CDMO)から別の CDMO へ製造を移管するには、多大な時間とリソースを要します。変更の程度によっては、新たな CDMO によって製造された製品の商業化前に、承認事項の変更申請や事前の規制承認を取得する必要がある場合もあります。FDA 承認済み医薬品の製造工程に変更を加える場合には、その内容を FDA に報告することが求められており、変更が医薬品の同一性、含量、品質、純度または効力に影響を及ぼし得る場合には、事前承認補足申請が必要となる可能性があるため、こうした移行プロセスは特に負担の大きいものとなり得ます。

BIOSECURE Act は、大手企業よりも、中小規模のバイオ医薬品企業に対して、より大きな負担を課す可能性が高いと考えられます。大手企業は一般に、(i) 自社の製造設備を保有・運営しており CDMO への依存度が比較的低いほか、(ii) 複雑で人手のかかる CDMO 変更プロセスを管理するためのリソースもより多く有しています。[4]また、複数の製造パートナーと取引していることが多いため、生産拠点を別のパートナーへ切り替えやすい傾向にあります。これに対し、中小規模の企業は、多くの場合 CDMO サービスへの依存度が高く、自社が利用する CDMO が懸念対象バイオテクノロジー企業に指定された場合であっても、スムーズな移行を行うためのリソースが不足している可能性があります。

結論

BIOSECURE Act は、2026 年に向けた米国議会の優先課題と、今後も継続すると見込まれる超党派の協力領域を明確に示しています。同法は、バイオテクノロジーが戦略的な国家安全保障領域となっており、とりわけゲノミクス、データ解析、バイオ製造といった分野において、敵対的な外国政府と結び付いたサプライヤーへの米国の依存度を低減することが緊急の政策課題である、という幅広い超党派のコンセンサスを反映しています。BIOSECURE Act が NDAA に組み込まれたことは、バイオ産業の安全保障、国内のバイオ製造能力の強化、米国のゲノムデータの保護、重要なサプライチェーンの国内回帰といったテーマが、今後も立法課題の最優先事項として位置付けられることを示しています。また、このような政策上の要請は、米国司法省(Department of Justice、DOJ)の新たなデータ・セキュリティ・プログラムによって、さらに裏付けられています。同プログラムは、ヒトのオミクスデータ(ゲノム、エピゲノム、プロテオーム、トランスクリプトームに関するデータ)を含む米国の機微なデータを保護し、ライフサイエンスおよびテクノロジー分野全体における外国からのアクセスリスクを精査するという連邦政府の関心が、今後一層高まっていくことを示すものでもあります。同法はまた、議会が制限的な措置と能力構築プログラムとを組み合わせる用意があることを示しており、将来の超党派による取り組みが、バイオエコノミーに対する外国の影響を抑制することだけでなく、米国内のイノベーションの拡大にも焦点を当てる可能性を示唆しています。このような状況を踏まえると、企業は、今後の政策シフトに対する自社のエクスポージャーを主体的に評価し、新たに立ち上がる連邦プログラムやルールメイキングのプロセスに早期から関与する体制を整備する必要があります。

[1] Josh Abbott, “BIOSECURE Act passes through US House,” BioProcess International (Sept. 11, 2024), https://www.bioprocessintl.com/regulations/biosecure-act-passes-through-us-house; Fraiser Kansteiner, “After BIOSECURE Act passes in House, targeted Chinese companies say they’re ‘deeply’ concerned” (Sept. 10, 2024), https://www.fiercepharma.com/pharma/china-focused-biosecure-act-passes-house-heres-what-targeted-companies-are-saying; Steven T. Dennis and Roxana Tiron, “Biosecure Act Out of Key Defense Bill in Win for Chinese Biotech,” Bloomberg (Dec. 7, 2024), https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-12-08/biosecure-act-out-of-key-defense-bill-in-win-for-chinese-biotech.

[2] S. Amend. 3236 to S. 2296, 119th Cong. (2025).

[3] House and Senate Armed Services Committees Release Final NDAA Text, https://armedservices.house.gov/news/documentsingle.aspx?DocumentID=6359.

[4] Miranda McLaren, “A quick guide to transferring a commercial drug product to a new fill-finish CDMO,” Pharmaceutical Technology (Sept. 4, 2024), https://www.pharmaceutical-technology.com/sponsored/a-quick-guide-to-transferring-a-commercial-drug-product-to-a-new-fill-finish-cdmo/#:~:text=Fill%20finish%20is%20a%20pivotal%20phase%20in%20drug,out%20the%20journey%20from%20onboarding%20to%20batch%20release.



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Because of the generality of this update, the information provided herein may not be applicable in all situations and should not be acted upon without specific legal advice based on particular situations. Prior results do not guarantee a similar outcome.