国際的腐敗行為防止事件の展開 2018年8月の10大ニュース
Top Ten International Anti-Corruption Developments for August 2018
国際的腐敗行為防止事件の展開 2018年8月の10大ニュース
Top Ten International Anti-Corruption Developments for August 2018
多忙な社内弁護士やコンプライアンスの専門家に全体像を掴んでいただくため、8月の国際的腐敗行為に関する事件の展開のうち最も重要なものについて、要約と、一次情報源のリンクを提供する。海外腐敗行為防止法(FCPA)の裁判管轄の制限に関する画期的な判決はどうなったか。英国重大不正捜査局(SFO)も捜査していた英国のエンジニアリング会社を米国司法省(DOJ)が不起訴処分とした理由は。アフリカでの汚職疑惑につき世界銀行から受注資格停止処分を受けた会社は。その答えはこの2018年8月の10大ニュースの中にある。
1. 控訴裁判所、FCPAの裁判管轄を制限 United States対Hoskins事件の2018年8月24日付判決において、合衆国第2巡回区連邦控訴裁は、DOJが海外の被告に対してFCPA違反の共謀又は幇助・教唆の罪を問う能力を制限した。本件は、Alstom S.A.とAlstom Power, Inc.(コネチカット州)などの子会社が、1億1,800万ドルの発電所建設契約を受注する目的でインドネシアの公務員に贈賄を行ったとされるスキームに関する事件である。被控訴人のLawrence Hoskins氏は米国市民ではなく、Alstom社の英国会社の従業員としてフランスで勤めていた。起訴状では、Hoskins氏の共謀者が米国での共謀の促進を目的として数々の行為を行い、Hoskins氏を共謀の重要人物としている—とりわけHoskins氏はインドネシアの公務員に賄賂を届けるために雇用するコンサルタント2名を選び、彼らに支払いを行う役割を果たしたとされている—ものの、DOJは、Hoskins氏自身がこの共謀を促進するために米国に足を踏み入れたことは一度もないと認めるに至った。裁判所は、DOJが裁判においてHoskins氏が国内企業(domestic concern)の「代理人」であったことを証明できない限り、Hoskins氏はFCPAの裁判管轄外にあるため18 U.S.C. § 371又は18 U.S.C. § 2に基づく共謀責任又は従犯責任を問うことはできないと判示した。裁判所によれば、「連邦議会は、法令が慎重に定めた範疇外の者が共謀や共犯の責任を負うことを想定していなかった。」ただし、その一方で裁判所は、「Hoskins氏が国内企業(domestic concern)の代理人であることを政府が証明しようとしたことをもってHoskins氏に対して同法の条文が適用される」と判示した。この裁判所判決は、米国外で行為をなした海外の被告をFCPA違反で起訴するために共謀・共犯説を用いることができるDOJの能力を制限するものの、DOJは今後も、海外の被告が国内の企業や発行体の「代理人」である場合には起訴できることに鑑み、今回の判決が実務上どのような影響を及ぼすかは今後明らかになるだろう。裁判所は、「FCPA上の代理行為の範囲についての見解」はなんら表明せず、この重要な問題の正確な定義についての判断を行わなかった。(Hoskins事件の詳細については、2015年8月及び2017年3月の10大ニュースをご覧下さい。)
2. バルバドスの保険会社、DOJとの「ディスゴージメント(利益吐き出し)を伴う不起訴処分」に同意 DOJは、2018年8月23日付レターにおいて、Insurance Corporation of Barbados Limitedに対し、同社によるFCPA違反の疑いに関する調査を「FCPA違反企業に対する執行方針に沿って」終了すると通知した。このレターによれば、DOJは、Insurance CorporationがDonville Inniss氏(当時のバルバドス議会の議員でバルバドスの産業、国際事業、商業及び小規模事業開発大臣(Minister of Industry, International Business, Commerce, and Small Business Development))に対し、2015年8月及び2016年4月に、2つの政府契約の受注を支援する見返りに36,000ドルの賄賂を支払ったと結論付けた。米国永住権を有するInniss氏は、米国内での賄賂受取りの手配を行ったとされる。同社はこの2つの契約(93,940.19ドル)から得た利益を返還することに同意した。
3. DOJが英国のエンジニアリング会社の起訴を見送る一方、英国SFOは韓国での贈賄の疑いで同社の元役員を起訴 DOJは、2018年8月20日付レターにおいて、Guralp Systems Limitedに対し、「FCPA違反企業に対する執行方針に従って」同社のFCPA違反の疑いに関する調査を終了したと伝えた。このレターによれば、Heon-Cheol Chi氏(韓国地質資源研究院地震研究センター所長)に賄賂金を支払ったことで、同社がFCPAに違反した証拠があるとDOJは結論付けた。カリフォルニア州中部地区で4日間にわたり行われた陪審トライアルを経て、Chi氏は2017年7月に、カリフォルニアとイングランドの地震観測会社2社から受け取った賄賂のマネーロンダリングについて有罪評決を受けた。FCPA違反企業に対する執行方針及びその前身であるFCPAパイロット・プログラムに従って発表されていた以前の不起訴処分の内容とやや異なり、DOJは、不起訴処分の一環としての利益吐き出しを会社に求めなかった。それどころか、DOJは、Chi氏の訴追に関して同社の協力があったこと及び同社が「同じ行為に関する法律違反について英国重大不正捜査局[SFO]が並行して継続している捜査の対象であり、SFOとの間で当該違反行為の責任を認めることを確約している」ことを、不起訴処分を保証する2つの要因として引き合いに出した。DOJの不起訴処分に関するレターはDOJの「Piling On」ポリシーについて触れていないものの、この不起訴処分は2018年5月に発表されたポリシーに沿ったものとなっている。2018年8月17日に、SFOは、Guralpの設立者の元マネージング・ディレクターをChi氏への賄賂支払いに共謀した罪で起訴した。
4. 米国のレンタカー会社、ブラジルのFCPA調査につきDOJ及びSECによる不起訴処分を公表 Hertz Corporationは、2018年8月6日付のSEC提出報告書において、米国証券取引委員会(SEC)及びDOJから、FCPA違反の疑いに関する調査を終了し、以後いかなる措置も講じない旨の連絡を受けたことを公表した。2016年8月のSEC提出報告書によれば、同社は、FCPA上の問題を生じさせる可能性のある活動がブラジルで行われていることを発見し、自ら執行当局に報告した。同社は最近の提出報告書においてブラジル当局への協力を継続していると発表している。
5. ブラジルの電気会社、DOJの不起訴処分を公表 Centrais Eletricas Brasileiras S.A.(別名Eletrobras)は、2018年8月13日の市場発表において、FCPA違反の疑いについてDOJが同社に対する不起訴の決定をしたと発表した。Eletrobrasは、2015年に、ブラジルでの建設契約に関連して、2008年以降、贈賄及び過請求の疑いがある証拠を発見したことを投資家に明らかにした。市場発表によれば、同社はSECと和解交渉中である。
6. 中国の製薬会社、SECによる不起訴処分を公表 Sinovac Biotechは、2018年8月20日付プレスリリースにおいて、SECがFCPA及び証券法の違反の疑いについての調査を完了したと発表した。ファイナンシャルリサーチ会社GeoInvestingが2016年に発表したレポートには、裁判所文書に、Sinovacの役員が中国の国家食品薬品監督管理局の公務員に対して贈賄を行ったことが示されているという記載がある。中国疾病予防コントロールセンターの公務員に対する中国での裁判においてSinovacの営業担当者数名の名が挙げられた後、Sinovacは、自社の営業員が関与する贈賄の疑いについても調査した。中国の国家食品薬品監督管理局にまつわる疑惑に関してある投資家が同社を相手取って2017年7月に提起した訴訟は、2017年9月に取り下げられた。
7. 米国の投資会社、リビヤでの贈賄疑惑につきSECと和解 2018年8月27日、SECは、米国の投資会社の子会社がリビヤの国営金融機関から出資を得る目的でリビヤの公務員に贈賄を行う仲介人を利用したことに関連するFCPAの会計処理・内部統制条項違反の疑いを解決すべく、同投資会社が利益吐き出し及び判決前利息として約3,400万ドルを支払うことに同意したと発表した。SECは、2018年6月のDOJとの和解に照らし、民事制裁金を課さなかった。
8. スロベニアのインフラ会社、コンゴ民主共和国に絡む贈賄疑惑につき世界銀行の受注資格停止処分 2018年8月22日、世界銀行は、Flycom d.o.o.が、コンゴ民主共和国(DRC)における送電の改善のために計画されたプロジェクトに関する汚職に関与したという疑惑につき、その和解のための交渉による解決合意(Negotiated Resolution Agreement)に同意したと発表した。世界銀行によれば、Flycomは、2010年から2014年の間に、南アフリカ電力市場プロジェクト(Southern Africa Power Market Project)の下で同社が受注した契約等に関連してコンサルタントのエンジニアに対し不適切な支払いを行った。同社及びその関連会社は受注資格を停止され、その結果、世界銀行が融資するプロジェクトへは18カ月間参加できない。この制裁は、受注資格停止共同措置に該当するため、同社が他の国々の開発銀行と取引する能力にも影響が及ぶ。
9.PDVSA事件関係者の訴追に関する最新情報
10. マレーシアのソブリンウエルスファンドに関するスキャンダルの動向 2018年5月の選挙で前首相Najib Razak氏が落選したことを受けて、マレーシアは、1MDB事件の一部の主要当事者らの起訴に踏み切った。(1MDB事件の詳細については、2016年7月、2016年8月、2017年6月、2017年12月、2018年5月及び2018年6月の10大ニュースを参照)米国、スイス及びシンガポールで捜査が同時進行中である。
執筆協力者:Margot Benedict